スペイン国内だけでなく世界的な注目を浴びるビッグイベントとなった「エル・クラシコ」。リーガ・エスパニョーラに所属するレアル・マドリードとFCバルセロナの対戦です。
この2チームは長年ライバル関係であり、ヨーロッパの覇権を争うようなレベルの高いチーム同士ですので、リーグ戦だけでなく国王杯やチャンピオンズリーグでも対戦があり、それらもクラシコと呼び盛り上がります。
今回の記事ではクラシコをもっと楽しむための歴史やライバル関係となった背景、今年の展望などを書いていきますのでぜひ参考にして観戦してみてください!
クラシコの歴史的背景
レアルとバルサが強烈なライバル関係となった経緯
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両チームは首都マドリードと商都バルセロナというスペインの2大都市に本拠地を置くチーム同士です。しかしただのナショナルダービーではなく、スペインの首都と1地方都市であるカタルーニャ州の歴史を抜きには語れません。
もともとカタルーニャ州の人々は非常に強い民族意識を持っており、自分たち独自の文化に誇りを持っています。またこの地域ではスペイン全土の公用語であるスペイン語(カスティーリャ語)とはかなり構造が違うカタルーニャ語が使用されているところからも、そのプライドの高さがうかがいしれますね。
ところが1939年、スペイン内戦の末にできたフランコ政権の独裁によって、カタルーニャ州の自治政府や自治憲章が廃止される政治的弾圧が起こります。また、それだけでなくカタルーニャの伝統的な音楽や祭礼、挙句にはカタルーニャ語の禁止など彼らの弾圧はカタルーニャ文化にまで及びました。
一方でマドリードはフランコ政権になると首都と定められ、そこを本拠地とするレアル・マドリードも優遇されます。その状況は試合でも影響し、1943年のクラシコではレアル・マドリードのホームで軍隊や警察の威圧、主審のあからさまなレアル寄りジャッジなどで11-0という試合結果になるほどです。
しかしバルセロナのホームスタジアムでは状況が違いました。そこではカタルーニャ語の使用が唯一許された場所であり、自分たちの言語で地元クラブのバルセロナを応援できたのです。これはFCバルセロナが「クラブ以上の存在」となるには十分なことでした。
それ以来FCバルセロナはカタルーニャの象徴となり、また「スペイン」のレアル・マドリードに対して怒りにも似た感情を向けるようになります。そして現在においてライバル関係と呼ばれる以上の政治的、文化的に代理戦争のような意味を持つ試合となったのです。
禁断の移籍
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そしてクラシコはスタジアムの場外でも繰り広げられることがあり、それは選手の獲得を巡った両チームの争いです。特に論争を呼んだのが1950年代から1960年代前半にレアル・マドリードで活躍したディ・ステファノと2000年にバルセロナからレアル・マドリードへと移籍したルイス・フィーゴです。
まずディ・ステファノですが、レアル・マドリード在籍11年で通算307得点、リーグ優勝8回、リーグ得点王5回と1950年代から1960年代前半のレアルを牽引する活躍をした選手です。
しかし最初に移籍話を持ちかけたのはバルセロナでした。そこにレアルも自チームに移籍を提案して横やりを入れるとスペインサッカー連盟がバルセロナへの移籍を認めず共同保有を提案。当時のバルセロナの会長は提案を承諾しますがバッシングを浴び辞任、そしてディ・ステファノはレアル・マドリードへと移籍することになった経緯があります。これはレアル・マドリードとバルセロナの敵対関係を決定的なものにする騒動でした。
またルイス・フィーゴは、ドリームチームと言われた90年代後半のバルセロナから2000年にレアル・マドリードへと突如移籍します。後にフィーゴは「クラブから評価されなかったから」という言葉を残していますが、この移籍にファンは大激怒したのは記憶に新しいですよね。
その余波は強く、フィーゴ自身が経営する日本料理店を破壊されたり、バルセロナのホーム”カンプノウ”で行われたクラシコでは、フィールド上に豚の顔まで投げ入れられました。また引退した現在でも遺恨は残っており、禁断の移籍という言葉が冗談ではなく両チームの関係性を表しています。
これまでの勝敗
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1902年にレアル・マドリードがスペイン国王から「レアル」の称号を受ける前のマドリードFCが創設されますが、この記念の年に両チームは初対戦しています。スペイン国内で初めての全国大会である国王杯の準決勝で3-1とバルセロナが勝利しました。
そしてその後はレアル・マドリードがリーグ優勝33回、バルセロナが24回とレアルがやや上回り、リーグ戦のクラシコの成績においてはレアルが72勝69敗33分とレアルが勝ち越してはいますが、ほぼ互角です。
また最近の成績でもバルセロナがリーグ、国王杯、チャンピオンズリーグと主要タイトル全てを獲得する”トレブル”を達成すると、レアルはチャンピオンズリーグで”デジマ”(10度目のヨーロッパ制覇)を達成し、さらに初の2連覇するなど、スペインならずヨーロッパの舞台でもしのぎを削っています。
今年のクラシコの展望
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ここ数シーズンのサッカー界は非常に目まぐるしく戦術やフォーメーションが変わり、その流れはこの2チームも例外ではありません。ボールを支配し攻める特徴があったバルセロナも少し様相が違ってきているので、昨シーズンのチーム状況から今年の両チームのクラシコの展望がどうなるか見ていきたいと思います。
まず昨季リーガ優勝を果たしたレアル・マドリードですが、戦術において非常に柔軟さを見せています。決まった型はなくリアクションサッカーといえば弱者的な戦術である印象を思い浮かべる人もいるでしょう。しかしレアル・マドリードが見せるそれは全く別のもので、相手にボールをもたせてカウンターを狙うのではなく、時間帯や相手チームによって戦い方を変える戦術です。上位のチーム相手にはカウンター気味で、下位のチームにはボールポゼッションを多くして試合を進めていきます。
一方のバルセロナですが、グアルディオラ監督時代は圧倒的にボールを支配し試合を進めていくスタイルでしたが、監督がルイス・エンリケになってからはオープンな試合展開になることも多くなりました。エンリケが指揮をとった最後のシーズンであった昨季も同様で、ショートカウンター気味の攻撃を多く用いており、中には中盤が失われているという論評さえ出るほどの変わりようです。
そして今季のクラシコですが、レアル・マドリードはモドリッチ、バルセロナはイニエスタが鍵になるでしょう。
レアルは戦い方を試合中にも変えることができるのはモドリッチの存在が大きいです。昨季のクラシコでは1戦目において攻守に非常に効いており、インターセプトで攻撃の起点になり、守備ではスペースを埋めバルセロナにチャンスを与えませんでした。
またバルセロナはイニエスタが出場するかどうかで試合の趨勢が変わってきます。バルセロナの戦い方を幼い頃から叩き込まれている下部組織出身のイニエスタはボールを前方に運ぶことができ、メッシやスアレスにボールを供給できます。戦い方がボールポゼッションを多くするものではなくなったといっても、この選手に頼らなくてはならない場面が今季でも多々でてくるのは間違いありません。
今シーズンのクラシコはメッシやロナウドだけでなく、この2人の中盤の攻防に注目しながら見てみると試合の流れや優劣が見えてくるのでオススメです。
2017〜2018シーズンの日程
2017〜2018シーズンのクラシコの日程ですが、2017年の12月23日(土)にレアル・マドリードのホームで、5月6日(日)にバルセロナのホームで行われます。
最後に
ヨーロッパのサッカークラブは日本よりも長い歴史がありますが、その分だけその国の政治にも影響を受けてクラブが運営されてきました。そのおかげか地域にクラブが根付いていて、サッカーが生活の一部となっています。
そしてそんな歴史的背景を知ることで、バルセロナの住民と同じようなテンションとまではいきませんが、クラシコをより身近に見ることができるのではないでしょうか。試合内容もレベルが高くスペクタクルなものになるのは間違いないのでぜひ観戦してみてください!